Latest update: August 15, 2019

ドクトル浅野目のネイチャートーク:VOICE 2017 Vol. 127
「谷川岳の出来事」
 1966年5月10日、残雪の谷川岳に挑んだ時の出来事である。僕と岳友、関本が一の倉沢出会に着いた時、そこにはすでに一張りのテントがあった。僕たちはあいさつをして近くに設営させてもらうことにした。早めの夕食を済ませて一息ついた頃、隣のテントの人から声がかかり酒を持っておじゃますることにした。彼は東京の人でいつも単独行で谷川岳に通い続けるベテランらしい。
 僕たちは明日、鳥帽子奥壁中央カンテを登攀する予定であることを告げると彼は突攀終了後の帰路について納得のいくアドバイスをしてくれた。彼の明日の行動はアンファールンゼを登るとのこと。僕たちはサンマの蒲焼きをごちそうになり、酒を酌み交わしながらお互いの健闘を祈り山の話に盛り上がった。
 次の朝早く、出発前に声をかけたが彼はもう出発したのか返事はない。その日僕たちは目的を達成し彼のアドバイスどおり西黒尾根から無事帰還したが彼はまだ帰ってこない。
 次の日、僕たちは衝立岩正面壁を完登しコップスラブから無事帰り着いたが、やはり彼はまだ帰っていなかった。次の日からは強い雨なので幽の沢出会いまでのハイキングを楽しんでキャンプに戻ったが、彼の姿を見つけることはなかった。
 そして、翌日は下山日である。彼にとっては谷川岳は庭同然であろうからあまり気にもしなかったが、一応土合(谷川岳登山口に近い旧国鉄上越線の駅)にある遭難対策室に声をかけてみた。奥から東京緑山岳会のオッサンが酒に酔って出てきた。オッサンはメモ帳のようなものにアルファールンゼとだけ書いて奥に戻った。
 その後、僕たちは普段の生活に戻って4日後、東京から1通の手紙が届いた。あなた達の通報で早く遺体が見つかったことと、検視の結果5月7日アンファールンゼのクレパスに滑落死していたことが判明したこと、そして5月10日には捜索願いを出していたとのこと・・。
 そんなバカな話はないと思いすぐに京都府警本部の鑑識課長に会って話を聞いてもらいさっそくに群馬県警に確認していただいたが今回の場合、遺体の損傷もなく非常に正確な検死報告であるとのこと。僕たちは、3日前に死んでいる人と話していたのだろうか。
 そういえば、サンマの蒲焼きをいただいたこととアドバイスを受けたことは、はっきり憶えているが、どんな色の服を着ていたとか、はっきりとどんな顔だったかとかは今だに思い出せない。


ドクトル浅野目のネイチャートーク:VOICE 2017 Vol. 126
「極 相 林」
 森林インストラクター資格認定のテストに必ず出てくる、重要な問題のひとつである。かって「ビーパル」の連中がみごとに答えられなかった「極相林」って、一体何だろう ! ? 森の始 まりから考えてみよう。
 まず、草のない地面が2年も経つと、ブタクサ、スイバ、タンポポ、ハコベ、カキドオシ、オオイヌノフグリ等によりグリーンカーペットが築き上げられてくる。やがてそこには、虫以外にカエル、モグラ、ミミズ、ヘビ等が集まり、3年以上経つと完全な草原が出来上がる。やがて鳥や動物や風等によって木の種子が運ばれ、ポツポツとモミヤ、マツ等の針葉樹の苗が出だしてくるのである。5年以上にもなると草原に、クリスマツツリーが点在している様に見える。それが「パイオニアツリーの段階」と言われているのだ。そして、20年も経つとそれぞれの木が大きくなり、どこからともなくその場所に特異な木々達の苗が出始めてくるのである。時は流れ40年以上もすると、一番始めの木々達も大木となり、強風にあおられたり、雷が落ちたり、或いは虫にやられたりして一本の木が倒れるごとにまた新しい木が生えだしてくる。100年も過ぎると、年とった木の茂みの下では低い層を作り出し、それを「群落の下層」と呼ぶ。やがて150年以上になるといよいよ最終段階に入り、針葉樹の古木とすっかり大きくなったブナ、ミズナラ、トチ、オニグルミ、メズメ等の相混ざった「極相林」が出来るのだ。もう一度整理してみると、「成長の三段階」と言うものがある。
① 「パイオニアツリー」の段階
② 中期
③ 最終段階(極相)
から成り、極相林には五つの層から出来ている。① 樹冠 ② 下層 ③ 低木層 ④ 下生えの草の層 ⑤ 林床である。近畿地方では、大台ケ原の一部と芦生演習林に天然林あるいは、原生林と言われる森がある。特に芦生演習林は、日本最多の植物群で構成されており、日本のかけがいのない最後の秘境のひとつである。
 極相林の中には、驚くべき生態系の世界が広がる。一握りの土の中には、50億とも言われる肉眼では見えない生物達が住んでいる。それはあたかも35億年の生命の歴史が圧縮されているかのように、多様な微生物達が共存しているのだ。私たちが森の中に入る時には、「恐れ、敬いの乾性」を持って立ち入らなければならない。
 下はアカマツ林の場合。左から2番目が10年後、3番目が20年後、4番目が30年後の様相。
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ドクトル浅野目のネイチャートーク:VOICE 2017 Vol. 125
「フィールドサイン」
 ネイチャーサインのゲームの一つに「宝探し」と称してフィールドサインを集めるものがある。例えば何かの食べ痕、何かの卵、チクチクするもの、いい匂いのするもの、何かのサナギ、鳥の羽根、動物の毛、等々。15〜25種類程度のものを決められた時間に集めて発表会を開くゲームである。その時インストラクターはシャーロックホームズのように集めた一つ一つを解き明かしたり、解説しながら人間以外の生き物の営みや、人と自然の関わりについて教えていくのである。
 人は昔からフィールドサインを見て暮らしている。コブシの花が咲いたらじゃがいもを植えたり、暦や季語としてフィールドサインを利用してきたのである。我が家の月桂樹の根元から無数のヒゴバエが出てきたので、よく調べてみると土壌の30cm下は岩盤である事が原因で樹高を上げると倒れる可能性がある為、樹形をブッシュタイプに切り変えようとしているのが伺える。
 又 我が家のシンボルツリーである樹高15mの朴の木は周りの杉、桧を取り除い為に十分な光が差し込み、これ以上背伸びする必要が無くなったせいか、急速に下枝を発達させながら、最上部への栄養をストップさせて内生菌等の働きで先端からゆっくりと枯らしていくのである。今では10cm程度に落ち着き、横枝の張り出したどっしりとした樹形である。
 毎年楽しみにしている無花果の木にもフィールドサインが現れた。キホシカミキリの襲来である。その原因を調べてみると、やはり浅い土の下は岩盤であり、十分な根張りが出来ないので栄養不足の為、害虫に対抗出来ないまま攻撃を受けている。実のところ無花果は3代目であり、1代目も同じ事が起こると予知してか、少し離れた所に2代目をしっかり用意しているのである。
 人工的な世界 すなわち「ガーデニング」の問い合わせの中で一番多くの問い合わせはドクダミとスギナの繁殖で悩む人です。ドクダミとスギナは固く締まった土で養分の無い酸性土壌が好みなのであり、すなわち手入れが足らない目印でもある。都市生活者の多くはアウトドアー離れも加わりフィールドに出る事も少なくなってきた。自然界から遠ざかる事により、人間性まで失いかね事に繋がるのではないかと危惧される。
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左から、無花果、月桂樹、スギナ、ヒコバエ、ドクダミ。